乳腺カンファレンス
第2回症例について
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インターネット乳腺カンファレンス第2回症例は、如何でしたでしょうか。
第1回は、症例が難しすぎたという意見が多かったので、
比較的ポピュラーな症例を選んだつもりでしたが、
裏を読もうとされた先生がいらしたようです。
前回お願いしましたように、今回は多くの先生が、
各モダリティごとに組織型診断を含めてご解答いただき、
前回よりもレベルアップが図れたと思います。
しかし今回、補助療法についての意見がほとんどありませんでした。
次回よりは手術療法のみでなく放射線・化学・内分泌療法、
あるいは乳房再検討につきましても御意見ください。
さらに意義のあるカンファレンスにしていきましょう。
 さて今回よりディスカッションに加わっていただいた先生方の中で
最も優れた御意見をいただいた方をMVPとして選ばせていただこうと思います。
今回(第2回)は、林孝子先生(名古屋外科第2外科)の診断の導き方が
最も優れていましたので、林先生をMVPといたしたいと思います。
今後毎回、MVPをおひとり選びたいと考えております。
さかのぼりますが、第1回のMVPは、窪田智行(名古屋大学第1外科)でした。
(カンファレンスディレクター:乳腺クリニック長瀬外科 長瀬慈村)

症例の経過

左乳癌(C領域、T2aN1bM0 Stage・、乳頭腺管癌>硬癌)の診断にて、両胸筋温存乳房切除術を施行した。
超音波上腫瘤径が3cm以上あり乳管内進展も明らかであったことより乳房温存手術は選択しなかった。
病理報告はa1>a3,f,ly(-)v(-)n0(0/20)
ER (+) 13
PgR (+) 91
PynPase 200.7unit/mg prot
術後補助療法として、TOR 40mg/day投与(術後5年間を予定)している。
術後2年経過現在のところ再発を認めていない。

第2回症例
コメント

マンモグラフィ岩瀬拓士先生(愛知県がんセンター乳腺外科)

脂肪性のマンモグラムで、左A領域に腫瘤をみとめる。
腫瘤の形状は分葉状で境界及び辺縁は微細鋸歯状を示す。一部スピキュラもともなう。
腫瘤の濃度は高濃度で、腫瘤から連続してC領域に構築の乱れを伴う局所的非対称性陰影の広がりを有する。
また腫瘤内部には石灰化を伴っている。(石灰化の詳細は画質不良で判定不能。)
他の画像の情報がない段階でのマンモグラフィの診断は、広範な乳管内進展を伴う浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)で判定はカテゴリー5。

画質が悪いため、石灰化に関しては形態も分布もよくわかりませんでした。
以上が私の考えたマンモグラフィの診断(他の画像の情報がない段階での)です。
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超音波佐久間浩先生(癌研究会附属病院超音波室)

超音波1、2より、形状不整な充実性腫瘤であるということがわかります。そしてこの形状より癌であるといえます。また腫瘤が乳腺から脂肪組織へ突出している様子が観察され、腫瘤周囲の脂肪組織のエコーレベルがわずかながら上昇している点から脂肪組織への浸潤が考えられます。皮膚や大胸筋への浸潤はなさそうです。組織型は、内部エコーが低く後方エコーが軽度増強している点から、間質成分が少なく細胞成分の多いもの、すなわち充実腺管癌を第一に考えます。しかし形状は充実腺管癌の典型ではなく、一部硬癌の成分も持っていそうです。あるいは乳頭腺管癌も否定できません。
超音波3の写真はmain tumorとの位置関係がわからないのでなんとも言えませんが、左のmassはこれのみで充実腺管癌が疑われます。右は嚢胞でもよさそうです。

診断:充実腺管癌(一部硬癌の成分を含むか?)
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MRI中村 清吾先生(聖路加国際病院外科)

(1)T1強調(最下段)は、Postcontrast Studyのみと思われますが、Precontrast Studyがあれば、最近の出血であれば、メトヘモグロビンによりT1強調のみで、白く映ります。同様に、濃い粘液も白く映ります。腫瘤の中心部がより白く見えるので、おそらく、出血ないしは、濃い粘液が含まれている腫瘤と思いますが、Enhanceすると、その情報にGdで造影される部分がオーバラップされるので判別が困難です。
(2)ダイナミックカーブは、急峻な立ち上がりを示し、増生の強い病変(主に癌、特にPap−tub)が疑われます。
(3)MIPでは、ドレナージベインが描出されています。これは、病変への血流が豊富なことを示し、サーモグラフィで悪性を示唆する所見の一つである熱血管像に相当するものと思われます。また、分泌症例の割りには、乳頭側の乳管内進展は目立たず、末梢側は、分泌物ないしは乳管内進展による広がりが疑われます。
(4)Coronalでは、乳頭の位置がわかるスライスがあると、主病巣と乳管内進展の位置関係が明瞭となりますが、この場合は主病巣から、内側やや下方にMIPで疑われた分泌物ないしは乳管内進展がありそうとしか言えません。

以上より、MRI上は、中心部に壊死(出血)を伴う乳頭腺管癌もしくは、Mixed Typeの粘液癌などが疑われます。
乳頭側の乳管内進展がなさそうに見えるので、温存をトライしても良いかと考えます。しかし、術式を検討する上では、分泌と乳管内進展を見極めるため、T1,T2、Postcontrastの画像を比較検討したい症例です。
末梢側により広がっていれば、Skin Sparing Mastectomyも選択肢の一つと考えます。
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細胞診池永素子(癌研乳腺細胞診断部)

一枚目の写真ではほつれた細胞が散在し、硬癌の出現パターンである。
一ヶ所だけ、画面左よりに位置する集塊が他の細胞と大きさが異なり雑多な細胞が混在していると判断されれば、乳腺症と読まれる可能性がある。
二枚目の写真では、二相性の欠如した、細胞集塊に腺腔形成が認められ、乳頭腺管癌が示唆される。
Class V :乳頭腺管癌>硬癌
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病理診断秋山 太先生(癌研乳腺病理部)

組織型は充実腺管癌、(a2>a1,a3)脂肪織浸潤を認める。
乳頭直下まで拡がる乳管内進展を伴っている。
比較的大きな病変であり、乳房自体厚みのあるもので、とり切る温存手術を行う場合には、広範かつ、比較的大きな切除となると思われる。
乳房切除標本のため全割されていないので、断言はできないが乳頭側主体の進展であるので、扇状部分切除も不可能ではないと考える。
リンパ節転移は認めないが、脂肪変性を伴った腫大したリンパ節を数個認める。


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総合診断と治療方針

総合診断
長瀬慈村(乳腺クリニック長瀬外科)
 

 今回の症例は、素直に見れば乳癌の診断は比較的容易であったと思われます。多くの先生は乳癌(組織型推定を含めて)の診断でした。良性と考えた先生は、糖尿病や外傷の既往歴、マンモグラフィ上腫瘤影が比較的淡くみえた、超音波像の機種による見え方の違い、などがその理由であったように思われます。しかし、糖尿病性線維症や外傷性脂肪壊死であれば細胞診で腫瘍性増殖を示す上皮集塊が取れることはおかしなことですし、マンモグラフィでも高齢者の脂肪性乳房であることを考慮すれば、また超音波も他の検査所見に引っ張られなければ結果を導き出せたものと思われます。
診断に際しては、良悪性の診断だけでなく組織型推定が重要で、各モダリティの間で推定組織型の極端なずれがある場合は生検が必要となることもあると思われます。しかし、ご存じのとおり乳癌の組織型はモザイク様であり、穿刺吸引細胞診を病変中のどの部分から採取したものなのか、どんな組織像なのかを考えて施行することで、確定診断とすることができ、不要な生検を回避できるのではないでしょうか。
ちなみに今回の症例では、(前医にて2回とも細胞が採取されておらず、腫瘤中心に線維性の変化があるものと考え)超音波ガイド下に腫瘤の表面よりから採取したもので、部分像として乳頭腺管癌崩れの硬癌と判断し生検なしの根治術とされたようでした。
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