乳腺カンファレンス
第1回症例について
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インターネット乳腺カンファレンス第1回症例は、如何でしたでしょうか。今回、 乳管内視鏡画像について(主乳管・抹消乳管の別、染色の有無、生検部位)の記載漏れをしてしまい、診断に際して混乱が生じてしまったことをお詫び申し上げます。初回としては難しすぎる症例(悪性病変と良性病変の混在)であったと反省いたしておりますが、ハイレベルなカンファをめざそうという気持ちの表れであると考えていただき、お許し願いたいと思います。

さて、第1回症例の実際の経過は以下の通りです。

総合診断:画像診断上は非浸潤性乳管癌と診断したが、細胞診・病理診断で良性の診断であり経過観察とした。
3カ月後再診時に同部位やや腫瘤様となってきたため、やはり非浸潤性乳管癌と考え、乳管腺葉区域切除術を施行した。病理組織学的診断は非浸潤性乳管癌、断端陽性であり追加切除を施行した。追加切除断端は陰性で、その他補助療法なしで経過観察中である。その後患者さんは結婚し、追加切除後2年を経た現在、局所、遠隔ともに再発は見られていない。
最終的な診断としては、乳頭側乳管に乳管内乳頭腫を伴った非浸潤性乳管癌でした。

カンファレンス初回であり、いろいろな問題点がありましたが、19名の先生方に診断・治療方針につき御意見をいただきました。その結果をまとめ、さらにコメンテーターの先生方の読みを加えて提示いたしました。本カンファレンスで、乳腺疾患診療の現状を知っていただき、日常の診療に役立てていただければ幸いです。

さて今回、画像が開けない、画質が悪い、症例が難しすぎるなどご意見をいただきました。画像が開けなかったことは、パスワードの間違い、操作方法の間違い、プロバイダーサイドの問題によるものが原因でした。画像の質に関しては、出来る限り高いものを心がけていますが、情報が重すぎてもトラブルのもとになりますので限界があります。
今回、1/3ほどの先生が画質の問題で読めないと言う結果でしたが、それ以外の先生は同じ画像で細かい診断をされておりました。実際の臨床でも完璧な画質が必ずしも得られるわけではなく、それなりの画像でも所見を読みとる努力が必要ではないでしょうか。
また今回、比較的多くの先生が、臨床情報より良悪性の判断をした後に、各モダリティの診断をしておりました。この方法では、最初の見立てが違っていた場合にはあらぬ方向にことが進んでしまう可能性があります。ひとつの検査法の所見も、単独で見た場合の診断と、臨床情報を加味した場合の診断とを、できれば組織型・亜型推定を含めて、考えておく必要があるでしょう。それにより、正確な診断とより適切な治療が導き出せるものと思います。

手探り状態で始めましたので、いろいろと不備、トラブルも多いと思いますが、その都度、改善していきたいと思いますので宜しくお願いいたします。それでは次回をご期待下さい。


カンファレンス・ディレクター 長瀬慈村(乳腺クリニック長瀬外科)

第1回症例
コメント

マンモグラフィ岩瀬拓士(愛知県がんセンター乳腺外科)

不均一高濃度のマンモグラムで、左A領域にその他の所見のうちの局所的非対称性陰影を認める。
陰影の内部に石灰化を伴っており、淡く不明瞭な石灰化が集簇性に認められる。
臨床情報のないマンモグラフィ診断は1)乳腺症(腺症)、2)非浸潤性乳管癌で判定はカテゴリー3
臨床情報を加味したマンモグラフィ診断は1)非浸潤性乳管癌、2)乳腺症(腺症)で判定はカテゴリー4

画質が悪いため、石灰化に関しては形態も分布もよくわかりませんでした。
以上が私の考えたマンモグラフィの診断(他の画像の情報がない段階での)です。
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超音波佐久間浩(癌研臨床検査第1部)

まず、所見としては限局した著明な乳管拡張であります。
 この場合、考えられる癌は非浸潤性乳管癌でありますので、とりあえず疑ってみましょう。しかし非浸潤性乳管癌といってもこのような乳管拡張所見のみを呈するものはむしろ少数で、多くは乳管周囲も低エコーとなり、ひと塊のmass様の像となります。
 その点、この画像は周囲の正常乳腺との比較ができないので、判定に苦しみます。
あと、乳管内に乳頭状の腫瘍像が描出されればそれにより判断できるのですが、それも無いようです。
ではやはり癌ではないのか?
しかし限局してこのような乳管拡張像をおこす他の原因もあまり思い付きません。
はり、癌の大きさはともあれ、どこかに癌が存在して(潜んで)いるのでは?
 私は、このような症例ではあまり頑張らず、細胞診・乳管造影・内視鏡に下駄をあずけることにしております。

 結論:超音波ではなんとも言いがたい。
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乳管造影蒔田益次郎(癌研乳腺外科)

乳管造影についてはCCでは非常に拡張したに陰乳管とその流域が造影されていて、そ の一区画に造影剤の入らないだ円形の陰影欠損があり、周囲の乳管は少し濃淡の不整 があります。拡張した乳管が途中から見にくくなっていることなど十分に造影剤が行 き渡っていない様です。一つのだ円形の陰影欠損からそこに乳管内乳頭腫があると思 われますが、その周辺特に乳頭側の造影剤の濃淡の不整が気になります。さらに大き く拡大をしないと分からないところはありますが、これより末梢の部分はあまり濃淡 不整やちりちりした像がないようなので、乳頭腫の末梢に併存した乳癌の可能性は低 いと思われ、乳管内に浮遊したものが原因になっていると考えられます。MLでは余り コントラストが良くなくて、乳管が拡張して一部は嚢胞状になっている様ですが、良く読めませんでした。と言うわけで診断は乳管内乳頭腫(嚢胞内乳頭腫)と思います。
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乳管内視鏡蒔田益次郎(癌研乳腺外科)

乳管内視鏡では2つの写真が見られますが、明るさから別の病変、あるいは別の場所を見ている可能性があるかも知れませんが、一つのものを見ているとすれば拡張して血管を透見する光沢のある正常乳管壁の中にポリープ状に内腔を占拠し末梢を閉塞している病変が見られます。立ち上がりやその発育状態から乳管内乳頭腫と思われます。2枚目の写真がよく全体像を示していて、病変自体も表面で光が反射しています。色調もやや赤みを帯び、1枚目の写真の中央の部分からはその表面が顆粒状あるいは桑実状であることを示していると思われます。左右の端にも光の反射のある部分がありますがここにも隆起があるのかこの写真からは分かりません。動かしてみているとおそらく中央の部分は空気を入れると奥へ下がり、空気を入れる力を弱めると手前側 に出てくるような動きを示すのではないでしょうか。1枚目の写真でも周囲の乳管の 壁面に血管が透見されていますが、網の目状によく発達していて、炎症か何かの影響を考えさせます。癌の進展であるとすればこのような像ではなく血管が分かりづらくなり、壁面が微妙に凸凹して血液などがそのわずかな凹みにたまると不整形の赤い地 図状の斑点のように見えてそれが末梢にもいくつも続いてみられると言う状態になります。また1枚目の左右の端にある光の反射が結節状の病変であるとすれば乳管内に多発する結節状の病変と言うことで多発性乳頭腫とともに乳癌も考えなければなりません。しかし、この1枚からはそこまでは言えません。と言うわけで、病変がひとつ であれば乳管内乳頭腫であると思います。
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細胞診池永素子(癌研乳腺細胞診断部)

細胞集塊には二層性があり、核の張りなく、細胞が均一(monotonous)でもない、重積も強くない。
benign(Class ll) と診断する。
papillary lesionとするstalkは認められないので、丈の低い病変を考える。
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病理診断秋山 太(癌研乳腺病理部)

乳管内視鏡的生検組織診:
標本の左端にある腺腔形成様の部分もCribriformとはいえないし粘液もたまっていないが、若干気になるところではある。 しかしよくみると二層性がありその裏に間質の増生を認めることからpapillomaと診断します。practicalに癌とすることはできない。

乳管腺葉区域切除術標本の病理組織学的診断:
非浸潤性乳管癌(papillary type〜comedo type)。乳頭直下に乳頭腫が混在しており、内視鏡的に切除されたものは、乳頭腫であったと考えられる。


切除標本弱拡

乳管内癌巣の強拡

乳頭腫の強拡
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総合診断と治療方針

総合診断
長瀬慈村(乳腺クリニック長瀬外科)

総合診断としては、先生方の意見がまっぷたつに分かれてしまいましたが、乳頭側乳管に乳頭腫を伴った非浸潤性乳管癌という症例であり、もっともな結果であると思います。
しかし、良性とするならば、MMG上の微細石灰化を伴う非対称陰影、超音波および乳管造影上の区域性に見られる口径不整な乳管拡張をどう解釈するのか、また、癌とするには、乳管内視鏡上の乳頭腫様腫瘤、乳管内視鏡的生検細胞診・組織診の良性よりの所見が気になる所でしょう。
また、乳癌と診断した先生のうち、乳管造影のleakage様所見より癌の浸潤を疑うという意見がありましたが、もし浸潤が生じたとするならば乳管の途絶として現れてくるものと思われます。
総合的には、やはり区域性に広がる非浸潤性乳管癌(papillary type)とすべきであると考えます。
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