マンモグラフィ:岩瀬拓士(愛知県がんセンター乳腺外科)
不均一高濃度のマンモグラムで、左A領域にその他の所見のうちの局所的非対称性陰影を認める。
陰影の内部に石灰化を伴っており、淡く不明瞭な石灰化が集簇性に認められる。
臨床情報のないマンモグラフィ診断は1)乳腺症(腺症)、2)非浸潤性乳管癌で判定はカテゴリー3
臨床情報を加味したマンモグラフィ診断は1)非浸潤性乳管癌、2)乳腺症(腺症)で判定はカテゴリー4
画質が悪いため、石灰化に関しては形態も分布もよくわかりませんでした。
以上が私の考えたマンモグラフィの診断(他の画像の情報がない段階での)です。
超音波:佐久間浩(癌研臨床検査第1部)
まず、所見としては限局した著明な乳管拡張であります。
この場合、考えられる癌は非浸潤性乳管癌でありますので、とりあえず疑ってみましょう。しかし非浸潤性乳管癌といってもこのような乳管拡張所見のみを呈するものはむしろ少数で、多くは乳管周囲も低エコーとなり、ひと塊のmass様の像となります。
その点、この画像は周囲の正常乳腺との比較ができないので、判定に苦しみます。
あと、乳管内に乳頭状の腫瘍像が描出されればそれにより判断できるのですが、それも無いようです。
ではやはり癌ではないのか?
しかし限局してこのような乳管拡張像をおこす他の原因もあまり思い付きません。
はり、癌の大きさはともあれ、どこかに癌が存在して(潜んで)いるのでは?
私は、このような症例ではあまり頑張らず、細胞診・乳管造影・内視鏡に下駄をあずけることにしております。
結論:超音波ではなんとも言いがたい。
乳管造影:蒔田益次郎(癌研乳腺外科)
乳管造影についてはCCでは非常に拡張したに陰乳管とその流域が造影されていて、そ の一区画に造影剤の入らないだ円形の陰影欠損があり、周囲の乳管は少し濃淡の不整
があります。拡張した乳管が途中から見にくくなっていることなど十分に造影剤が行 き渡っていない様です。一つのだ円形の陰影欠損からそこに乳管内乳頭腫があると思
われますが、その周辺特に乳頭側の造影剤の濃淡の不整が気になります。さらに大き く拡大をしないと分からないところはありますが、これより末梢の部分はあまり濃淡
不整やちりちりした像がないようなので、乳頭腫の末梢に併存した乳癌の可能性は低 いと思われ、乳管内に浮遊したものが原因になっていると考えられます。MLでは余り
コントラストが良くなくて、乳管が拡張して一部は嚢胞状になっている様ですが、良く読めませんでした。と言うわけで診断は乳管内乳頭腫(嚢胞内乳頭腫)と思います。
乳管内視鏡:蒔田益次郎(癌研乳腺外科)
乳管内視鏡では2つの写真が見られますが、明るさから別の病変、あるいは別の場所を見ている可能性があるかも知れませんが、一つのものを見ているとすれば拡張して血管を透見する光沢のある正常乳管壁の中にポリープ状に内腔を占拠し末梢を閉塞している病変が見られます。立ち上がりやその発育状態から乳管内乳頭腫と思われます。2枚目の写真がよく全体像を示していて、病変自体も表面で光が反射しています。色調もやや赤みを帯び、1枚目の写真の中央の部分からはその表面が顆粒状あるいは桑実状であることを示していると思われます。左右の端にも光の反射のある部分がありますがここにも隆起があるのかこの写真からは分かりません。動かしてみているとおそらく中央の部分は空気を入れると奥へ下がり、空気を入れる力を弱めると手前側
に出てくるような動きを示すのではないでしょうか。1枚目の写真でも周囲の乳管の 壁面に血管が透見されていますが、網の目状によく発達していて、炎症か何かの影響を考えさせます。癌の進展であるとすればこのような像ではなく血管が分かりづらくなり、壁面が微妙に凸凹して血液などがそのわずかな凹みにたまると不整形の赤い地
図状の斑点のように見えてそれが末梢にもいくつも続いてみられると言う状態になります。また1枚目の左右の端にある光の反射が結節状の病変であるとすれば乳管内に多発する結節状の病変と言うことで多発性乳頭腫とともに乳癌も考えなければなりません。しかし、この1枚からはそこまでは言えません。と言うわけで、病変がひとつ
であれば乳管内乳頭腫であると思います。
細胞診:池永素子(癌研乳腺細胞診断部)
細胞集塊には二層性があり、核の張りなく、細胞が均一(monotonous)でもない、重積も強くない。
benign(Class ll) と診断する。
papillary lesionとするstalkは認められないので、丈の低い病変を考える。
病理診断:秋山 太(癌研乳腺病理部)
乳管内視鏡的生検組織診:
標本の左端にある腺腔形成様の部分もCribriformとはいえないし粘液もたまっていないが、若干気になるところではある。 しかしよくみると二層性がありその裏に間質の増生を認めることからpapillomaと診断します。practicalに癌とすることはできない。
乳管腺葉区域切除術標本の病理組織学的診断:
非浸潤性乳管癌(papillary type〜comedo type)。乳頭直下に乳頭腫が混在しており、内視鏡的に切除されたものは、乳頭腫であったと考えられる。
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